1. 基礎知識

産業別の「人件費率」と「人件費額」の特徴

 昇給を考える上で欠かせないのは、産業や事業によってどの程度の人件費が発生するかという点である。人件費は、売上全体に占める「割合」だけでなく、その「金額」も重要となる。

 たとえば、売上に占める人件費の割合(=人件費率)が高い場合、従業員にとっては自分たちの取り分が多いことを意味するために望ましい傾向と考えられるかもしれない。しかし、売上金額そのものが小さい場合は、たとえ人件費率が高くとも給与額(=人件費額)は低くなる。一方、売上に占める人件費率が低くても、売上が大きい場合は人件費額は高くなる。

 これらを踏まえると、従業員の給与を高める施策を考える上では「人件費率」と「人件費額」の両方の理解が不可欠といえる。

 産業別に「人件費率」と「人件費額」の二軸でおおよその分類・比較をすると、以下のようになる。

人件費額<高> × 人件費率<高>
 労働集約型(=主に人が付加価値を生む)であり、高付加価値を生み出す産業。知識やスキルを持つ専門職(エンジニア・弁護士・コンサルタントなど)が中心。一人当たりの給与水準が高く、人材が収益の源泉なので人件費率も高くなる。

▼①の主な業界
・金融(投資銀行・証券会社など)
・IT(ソフトウェア・AI企業など)
・コンサルティング/士業(戦略コンサル・会計・法律事務所など)

人件費額<高> × 人件費率<低>
 資本集約型(=主に設備が付加価値を生む)であり、大規模な設備投資を行うことで売上規模が大きい産業。人件費の総額は多いが、売上に対する割合は低くなる。

▼②の主な業界
・エネルギー(電力・ガス・石油)
・情報通信(大手通信キャリア) 
・製造(自動車・半導体・機械・化学)

人件費額<低> × 人件費率<高>
 労働集約型であり、生み出す付加価値は低いため売上規模も小さくなる傾向にある産業。それゆえ人件費額は少ない一方で、ビジネスモデルの特徴から人件費が占める割合は高くなる。

▼③の主な業界
・医療/介護(医療機関・老人ホーム・訪問介護)
・教育(学習塾・幼児教育)
・飲食(レストラン・カフェ)

人件費額<低> × 人件費率<低>
 低利益・高回転のビジネスモデルによる産業。薄利多売モデルや大規模なオペレーションによって低コスト運営を実現し、人件費を抑えている。業種によっては自動化や仕入れコストの影響が大きく、人件費率は相対的に低くなる。

▼④の主な業界
・物流(倉庫・低単価輸送)
・小売(コンビニ・スーパーマーケット)
・農業(小規模農家)

 これらの業界をそれぞれの人件費額(※年収)と人件費率の平均値で図にすると、以下のようになる。

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