「事業領域の拡大と撤退の判断基準」では、どのような事業領域に投資するべきかという点について触れた。投資先を明確にした上で次に考えるべきは、「どのようにして必要な経営資源を確保するか?」という点である。目指すべき方向性(投資先)が決まれば、すぐに事業が拡大するというわけではない。事業が拡大するためにはいわゆる「ヒト(人材)・モノ(設備)・カネ(資金)・チエ(情報)」が必要となる。その全てを自社で用意するという選択肢もあるが、他にもこうした経営資源を確保・補完する方法として以下の手法が挙げられる。
(1)アウトソーシング(外部委託) (2)アライアンス(提携) (3)M&A(合併・買収) |
(1)のアウトソーシングは3つの中で「最も緩いつながり」であり、(3)のM&Aは「最も固いつながり」である。(2)のアライアンスは、その中間地点に位置付けられる。
これら(1)~(3)の概要とメリット・デメリットをまとめると、以下のようになる。
(1)アウトソーシング(外部委託)
アウトソーシングは、自社の業務の一部を外部の企業に委託することでコスト削減や業務効率化を図る手法である。例としては、人事・会計業務やIT業務、営業、物流のアウトソーシングなどが挙げられる。
企業の成功事例としては、P&Gが給与計算や福利厚生業務、出張・精算業務、人事データ管理などをIBMにアウトソーシングしたことで大幅なコスト削減と業務効率化を実現した事例がある。これにより、P&Gは経営資源をマーケティングや製品開発など自社のコア業務に集中させることができた。
▼メリット
・コスト削減:
自社で行うために新たに人材を確保するよりも低コストで運用できる。
・専門性の活用:
高度な技術やノウハウを持つ企業の力を借りられる。
・業務の効率化:
自社のコア業務に集中できるため、自社の競争力が向上する。
▼デメリット
・品質管理の難しさ:
外部企業の業務品質が自社基準に満たない可能性がある。
・ノウハウの蓄積が困難:
外部企業への依存が進むと、自社に技術やノウハウが蓄積されない。
・機密情報の流出リスク:
外部企業への情報提供が必要になるため、セキュリティリスクがある。
(2)アライアンス(提携)
アライアンスは、他の企業と協力することで特定の事業や技術開発などを共同で進める手法である。例としては、特定の業務で連携する業務提携や、提携先の株式を取得する資本提携、または共同出資により法的に独立した企業を新たに立ち上げるジョイント・ベンチャーなどが挙げられる。
企業の成功事例としては、TOYOTAとSUBARUが戦略的提携を行い、技術協力による競争力向上を実現した事例がある。特に成功したのがスポーツカー「TOYOTA 86」と「SUBARU BRZ」の共同開発であり、TOYOTAの生産技術とSUBARUの水平対向エンジン技術を融合させ、高性能かつコスト効率の高いスポーツカーを開発した。両社は提携によってそれぞれのブランド力を活かしながら開発コストを分担し、市場競争力を強化することができた。
▼メリット:
・柔軟な経営資源の補完:
自社が持たない技術や市場を活用できる。
・リスク分散:
投資や経営の負担を分散しながら新市場へ進出することができる。
・スピーディーな事業展開:
M&A(企業合併)ほどの資金負担がなく、短期間で実行できる。
▼デメリット:
・利害対立のリスク:
目標の違いや戦略変更によって関係が破綻する可能性がある。
・コントロールの制約:
自社単独の意思決定が難しくなる可能性がある。
・技術流出のリスク:
共同開発を通じて自社の機密情報が流出する可能性がある。
(3)M&A(合併・買収)
M&Aは、他の企業を合併または買収することで自社の経営資源を強化する手法である。例としては、競争力のある競合企業を買収して市場シェアを拡大する「水平型M&A」や、サプライチェーン(=供給元・仕入先)を強化するために取引先企業を買収する「垂直型M&A」、他にも異業種の企業を買収して新規事業に参入する「多角化型M&A」などが挙げられる。
企業の成功事例としては、ウォルト・ディズニー・カンパニーがピクサー・アニメーション・スタジオを買収した事例がある。買収前のディズニーはアニメ映画部門が低迷していたが、ピクサーの革新的なCG技術と創造力を取り込むことで新たなヒット作を次々と生み出した。このM&Aにより、「トイ・ストーリー」や「カーズ」なども成功させ、ディズニーのアニメーション部門は再び成長軌道に乗ることになった。
▼メリット:
・迅速な経営資源の獲得:
人材や技術、顧客基盤などを自社で育てるよりも短期間で獲得することができる。
・市場シェアの拡大:
競争優位性の強化や新市場への進出が容易になる。
・シナジー効果:
経営資源の統合により、新技術の開発や業務効率化、コスト削減が期待できる。
▼デメリット:
・買収コストの高さ:
多額の資金が必要になり、財務リスクが増大する。
・統合リスク:
企業文化の違いや人材流出による摩擦が発生する可能性がある。
・法規制や手続きの複雑さ:
独占禁止法などの法的リスクや手続きの負担が大きい。
■経営資源の補完方法の判断基準 ・自社のコストを抑えて、特定の業務を効率化したい場合 → (1)アウトソーシング(外部委託) ・自社にない強みを持つ企業と協力し、相互に補完したい場合 → (2)アライアンス(提携) ・自社の競争力を大幅に向上させるために、他社の経営資源を統合したい場合 → (3)M&A(合併・買収) |
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