1. Ⅰ.戦略

事業活動に必要な環境分析(1):PEST+E 分析

 「事業拡大によって不足する経営資源の補完方法」では、経営戦略を実行する上で企業(=自社)に足りていない技術などを「外部委託」や「提携」、または「合併・買収」といった方法で得られるという点に触れた。

 こうした方法で不足しているものを補完することができる一方、市場(=社会)には、企業活動に大きな影響を与えるにもかかわらず企業の力では制御できない要素も多くある。極端な例でいえば、法律によって禁止されている活動などである。この場合、企業にどれだけ技術があってもその分野での製品・サービス化は不可能となる。

 企業はこうした要素によって事業活動が不可能(または著しく非効率なもの)にならないよう、あらかじめ自社で変更することができない「外部環境」を詳細に分析しておく必要がある。また、外部環境を正確に知ることで、その環境に適応した効果的な事業戦略が明確になることもある。

 環境分析の代表的なものとして、「PEST分析」がある。これは、以下の4つの観点から外部環境を分析する手法である。

・Politics(政治的要因):
 法律(規制・税制)、政府・関連団体の動向、消費者保護、公正競争、貿易規制など
・Economics(経済的要因):
 景気、価格変動(インフレ・デフレ)、貯蓄率、失業率、為替レート、金利など
・Society(社会的要因):
 人口動態、ライフスタイル、文化、教育水準、消費者行動、社会規範、価値観、世論など
・Technology(技術的要因):
 技術革新、特許など

 なお、近年では上記の4つ(PEST)に環境的要因(Environment)を加えて考えられることもある。

・Environment(環境的要因):
 気候変動、環境保護規制、資源枯渇など

 このPEST+E分析は、特に規制が厳しい業界(例:製薬・エネルギー・自動車)や、環境問題が影響を与える業界(例:食品・観光)において効果的な分析が可能となる。なお、全ての要因を網羅的に分析すると膨大な時間や手間がかかるため、自社の事業と深い関係にある重要な要因に絞って分析することが重要である。たとえば、製造業では技術的要因が重要であり、食品業界では社会的要因が重要といった特徴がある。

▼業界別のPEST分析例

【電気自動車(EV)業界】
Politics(政治的要因):各国政府のEV普及促進政策(補助金、規制強化)など
Economics(経済的要因):EVバッテリーのコスト低下、原材料の価格変動など
Society(社会的要因):環境意識の高まり、都市部の自動車所有率の低下など
Technology(技術的要因):バッテリー技術の進化、充電インフラの拡充など
【人工知能(AI)業界】
Politics(政治的要因):AI規制の動向、データプライバシー法の強化など
Economics(経済的要因):AI市場の成長、投資の増加など
Society(社会的要因):自動化に対する賛否、AIによる雇用の変化など
Technology(技術的要因):ディープラーニングの進化、クラウド技術の発展など

▼PEST分析の見落とされがちなポイント

(1)それぞれの要因の関連性
 PEST分析は4つの要因(政治的要因・経済的要因・社会的要因・技術的要因)がそれぞれ独立したものと捉えられることがあるが、実際にはこれらの要因は相互に強く影響を及ぼす関係にある。

 たとえば上述した電気自動車(EV)業界の場合、

・「政府がEV普及のため補助金を出す」(政治的要因)
  ↓
・「補助金によってEVの価格が下がる」(経済的要因)
  ↓
・「話題となり環境意識の高まりと相まってEVの需要が増加する」(社会的要因)
  ↓
・「EVの開発競争が加速し、バッテリー技術が進化する」(技術的要因)

 このように、各要因が連鎖的に影響を与え合うため、ひとつの要因だけを見るのではなく、相互作用も考慮することが求められる。

(2)時代による要因の変化
 PEST分析で重要となる要因は、時代によって異なる場合がある。たとえば、スマートフォン市場は時代によって以下のように重要な要因が変化してきた。

・2007年頃:iPhoneの登場で、技術的要因が劇的に変化
・2010年代:競争激化により、経済的要因の重要性が増加
・2020年代:環境問題や安全保障の観点から、社会的要因や政治的要因が重要に

(次の記事:事業活動に必要な環境分析(2):SWOT分析

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