1. Ⅰ.戦略

事業活動に必要な環境分析(2):SWOT分析

 「事業活動に必要な環境分析(1):PEST+E分析」では、経営戦略を考える上で重要となる、自社では制御することができない外部環境について、「政治的要因」「経済的要因」「社会的要因」「技術的要因」などについて触れた。

 戦略の立案の際にこうした外部環境を分析することが不可欠だが、それ以外にも、自社に可能なこと・不可能なことを明確にするという「内部環境」の分析もまた不可欠となる。

 PEST+E分析が外部環境に焦点を充てた分析手法であるのに対して、外部分析と内部分析の両方に焦点を充てた分析方法として、「SWOT分析」がある。

 SWOT分析とは、企業の外部環境(機会・脅威)と内部環境(強み・弱み)とを分析する手法であり、以下の4つの要素の頭文字を由来としている。

・Strengths(強み):
 自社の競争優位性や内部資源

・Weaknesses(弱み):
 自社の課題や競争上の不利な点

・Opportunities(機会):
 市場環境の変化などの好機

・Threats(脅威):
 競争環境や規制などの制約

(1)Strengths(強み):自社の競争優位性や内部資源
 自社が持つ、他社にない技術や資源が「強み」となる。ブランド力や顧客基盤など、競争優位性のあるものであれば有形・無形を問わず含まれる。

 たとえば、Appleの主な「強み」としては以下の点が挙げられる。

・イノベーション力:
 ユーザー体験を重視したデザインと技術革新

・製品の相互関連性:
 iPhone、Mac、iPad、Apple Watchがシームレスに連携

・ブランド力:
 Appleは世界的に強力なブランドイメージを確立

・強固な顧客基盤:
 熱狂的なファン層が存在し、高いリピート率を誇る

 Appleはこれらの強みを活かすことで、製品が高価であっても市場で高い競争力を維持している。


(2)Weaknesses(弱み):自社の課題や競争上の不利な点
 自社が抱える、競争力を低下させる要因が「弱み」となる。高コスト体質や技術の遅れ、ブランドイメージの低下・市場依存度の高さなどが挙げられる。

 たとえば、Teslaの「弱み」としては以下の点が挙げられる。

・生産能力の制約:
 自動車業界の他の大手メーカー(トヨタ、フォード等)と比べて、生産能力が限定的

・供給チェーンリスク:
 バッテリーの主要部品(リチウムなど)に対する依存度が高い

・品質管理の課題:
 新型車の発売時に品質不具合が報告されるケースがある

・競争の激化:
 EV市場に他の大手メーカーが参入し、独占的地位が揺らぎつつある

 Teslaはこれらの弱みを克服するために、自社の強み(革新技術・ブランド力など)を活かすことが求められる。


(3)Opportunities(機会): 市場環境の変化などの好機
 市場の成長性や社会的な変化、規制の緩和、技術革新などによって生まれるビジネスチャンスが「機会」となる。

 たとえば、Netflixにとっての「機会」として以下の点が挙げられる。

・5G(高速通信)の普及:
 ストリーミングサービスの利便性が向上

・ストリーミング市場の成長:
 コロナ禍でオンラインコンテンツの需要が拡大

・国際展開の可能性:
 アメリカだけでなく、インドやアフリカなどの新興市場が拡大

・オリジナルコンテンツの需要増加:
 競合による既成コンテンツの提供の飽和

 Netflixはこれらの機会を活かし、グローバル市場でのシェア拡大を目指している。


(4)Threats(脅威):競争環境や規制などの制約
 競争環境や法規制、消費者の行動変化など、企業にとって負の影響をもたらす可能性があるものが「脅威」となる。

 たとえば、TOYOTAにとっての「脅威」として以下の点が挙げられる。

・EVシフトの加速:
 世界的にEV(電気自動車)の需要が拡大し、ハイブリッド車中心の戦略がリスクに

・新規参入の増加:
 Teslaなどの新興EVメーカーの成長

・原材料価格の上昇:
 半導体不足やリチウム価格高騰によるコスト増加

・環境規制の強化:
 各国のCO2排出規制が厳格化し、ガソリン車の販売に制約が生じる

 TOYOTAがこれらの脅威に対応するため、水素自動車やEV開発を加速させる戦略を進めることが求められている。


▼クロスSWOT分析

 SWOT分析をより戦略的に活用するための方法として、「クロスSWOT分析」がある。クロスSWOT分析では、SWOT分析で特定した「強み」「弱み」「機会」「脅威」を組み合わせて戦略を策定する。単に要素をリストアップするSWOT分析とは異なり、各要素を掛け合わせることで、より実践的な戦略立案が可能となる。


(1)「強み × 機会」戦略:
 自社の強みを活かして、市場の機会を最大限に利用する戦略。最も攻めの戦略であり、成長市場において企業の競争力を最大限に発揮する方針を採る。

<主な事例:Appleの相互関連性戦略>

・強み:
 ブランド力、革新技術、強固な相互関連性

・機会:
 5Gの普及、スマートデバイス市場の拡大

⇒戦略と成果:
 iPhoneを中心に、Mac、iPad、Apple Watchなどを連携させる相互関連性を強化。また、サブスクリプション(Apple Music、iCloud、Apple TV+)を拡充し、ユーザーの囲い込みを強化。これにより、Appleは高価格帯のスマホ市場で高い利益率を維持し、サブスクリプション事業の収益が急成長した。


(2)「強み × 脅威」戦略:
 自社の強みを活かして、市場の脅威を回避・最小化する戦略。競争環境の変化や市場リスクに対抗するため、強みを活用してポジションを守る方針を採る。

<主な事例:TOYOTAのEV・水素戦略>

・強み:
 TOYOTAの品質管理力、ハイブリッド技術

・脅威:
 EV市場の拡大によるガソリン車の衰退、新興EVメーカーの台頭

⇒戦略と成果:
 EVと水素自動車の研究開発を強化。また、自社のハイブリッド技術を活かし、燃費の良い次世代車を開発。サプライチェーンの強化によって部品調達の安定化を図る。これにより、TOYOTAは完全なEV化には慎重な姿勢を採りながら、水素技術とハイブリッド技術で競争力を維持している。


(3)「弱み × 機会」戦略:
 自社の弱みを克服しながら、市場の機会を活かす戦略。成長機会を活用するために、企業が内部の課題を克服することに重点を置く方針を採る。

<主な事例:Teslaの生産能力強化>

・弱み:
 限定的な生産能力、コスト高

・機会:
 EV市場の急成長、環境規制の強化(EV需要拡大)

⇒戦略と成果:
 新工場(ギガファクトリー)を建設し、生産体制を強化。また、バッテリー技術を改良し、コストを削減。他メーカー(Panasonic等)との提携を強化。これにより、Teslaは生産能力を大幅に向上させ、EV市場での競争優位を確保した。


(4)「弱み × 脅威」戦略
 自社の弱みを克服しながら、市場の脅威に備える戦略。最も消極的な戦略であり、競争環境が厳しい中で生き残るための方針を採る。

<主な事例:Netflixのコスト削減と広告戦略>

・弱み:
 コンテンツ制作コストの高さ、価格競争の激化

・脅威:
 Disney+やAmazon Primeなど競合との競争激化や会員数の伸び悩み

⇒戦略と成果:
 コスト削減策として、パスワード共有の制限を強化。また、低価格の広告付きプランを導入し、新たな収益源を確保。グローバル市場向けのローカライズコンテンツ(海外ドラマなど)を強化。これにより、Netflixは収益性の改善に成功し、新規ユーザーを獲得した。


▼SWOT分析が活用できる領域

 SWOT分析は、成長戦略・競争戦略といった「2.経営戦略」の策定だけでなく、個別の部門ごとに競争優位性を確立することが求められる「3.事業戦略」や、自社ブランドのポジショニングを決定するための「4.マーケティング戦略」、さらには自社の強みを強化し、弱みを克服するための「7.組織設計」など、幅広い領域で活用することができる。

(次の記事:事業戦略の基本となる3C分析

PAGE TOP